製品やサービスが顧客の継続的・習慣的な支持を得るためのしくみについて解説した理論書「Hooked」。
その日本語版出版を記念して、著者のニール・イヤール氏と、翻訳を監修した弊社代表の金山によるセミナーが先日行われた。
今記事では、その中でニール氏が語った『使われ続けるサービスに必要なこと』をお伝えしたいと思います。
「hooked」モデルとは
Facebook、Twitter、LINE。
これらのサービスにはある共通点があります。
それは、顧客に”習慣”を提供するのに成功していること。
私達が、これらのサービスのサイトやアプリを立ち上げるのは、”何となく”という場合が多いのではないでしょうか?
そして、我々サービス提供者は、その”何となく”、つまり”習慣”を欲してやまない訳ですが、ニール氏はそれらのサービスを調査し、それをスタンフォードのマスターで教える中で、それらのサービスの”習慣”形成には”あるパターン”が存在することに気づきました。
そして、その”あるパターン”をその他のサービスに応用可能なモデルにしたのが、この「hooked」モデルです。
「hooked」モデルは、以下の4つのステップから構成されています。
1,トリガー
2,アクション
3,リワード
4,インベストメント
そして、これら4つのステップが以下の図のようにサイクルとして回るようになると、そのプロダクトはユーザーの”習慣”として取り込まれていくことになります。
1,トリガー
ハマるしかけ「hooked」の最初の段階は、「トリガー」です。
それには、2つのタイプがあります。
1つ目は、外的トリガーです。これは何かをきっかけとして何かの行動を促すもので、次に何をするべきかの情報も、この外的トリガーに含まれています。例えば、[Buy Now!]や[Click Here!]などのボタンです。
2つ目は、内的トリガーです。こちらは馴染みが薄いものですが、外的トリガーと違うのは、トリガーの中に次に何をするべきかの情報があるのではなく、ユーザーの記憶の中にその情報があるということです。一番頻度が高く発生する内的トリガーは感情によるもの、特にネガティブな感情によるものです。例えば、気分が落ち込んでいる人ほどメールを見る回数が多いことが研究により分かっています。なぜなら、気分が落ち込んだ時には何かのテクノロジーを使って、人との繋がりを求めるからです。他にも、人との繋がりを求めるときにはFacebookを開き、何かの情報が気になる時にはGoogleを開くというのは全て内的トリガーによるものです。
したがって、まずユーザーの「かゆみ」はどこなのかを明確にすることが重要です。つまり、あなたのプロダクトをユーザーが使う本当の理由は何なのかを理解することが重要です。
2,アクション
次の段階は「アクション」です。これは、「リワード(報酬)」を期待しながら行うシンプルな行動です。ここでは「シンプル」という部分が非常に重要です。例えば、Pinterestで画面をスクロールしたり、Googleで検索をしたり、Youtubeで再生を押すなどの非常にシンプルな行動のことです。
行動に関して、B・J・フォッグ氏が提唱した以下のような公式があります。
B=mat (B=行動、m=モチベーション、a=アビリティ、t=トリガー)
つまり、行動を起こすためには、モチベーション(動機)、アビリティ(行動の容易さ)、トリガー(きっかけ)の3つの要素が重要です。
したがって、人間の行動はオンライン、オフラインに関わらず、上記3つの要素を見ることで予測することができる。
さらに、上記3つの要素には、より細かい要素に分けられます。
モチベーションは以下の6つの根本的な欲求から来ています。モチベーションを考える際には、以下の6つがレバーとなります。
1,喜びを求める
2,痛みを避ける
3,希望を求める
4,恐れを避ける
5,社会的承認を望む
6,社会的拒否を嫌がる
次に、アビリティ、ある行動がどれだけ容易に行えるかに関しても、6つのレバーがあります。すなわち、以下の6つを減らすことでアビリティの向上を図ることができます。
1,時間
2,お金
3,身体的努力
4,考える手間
5,社会的逸脱
6,ルーティンでない新しいこと
これに最初に説明したトリガーを入れた以上3つが、人間の行動に影響に与える要素です。
3,リワード
そして、3つめの段階が、「リワード(報酬)」です。これを考える際には、まず脳の中で何が起きているかを知るところから始めましょう。OldsとMilnerという2人の学者が行った脳に関する実験により、脳には刺激を受けると行動に影響を与える側坐核という部分があることが分かりました。
そして、2人の学者による更なる研究の結果、以下の重要な事実が分かりました。
実際に物を得た際に脳に刺激が加わるのではなく、”それを得られそうだ”と予想することで脳に刺激が加わる。
したがって、リワードは実際にそれが手に入る時ではなく、それが手に入るかもしれないとユーザーが期待する時に最も効果が高まるのです。
「分からないこと」は脳を非常に刺激します。
そこで、「可変性」というものがキーワードになってきます。
B・F・スキナーの研究によると、鳩がレバーを押して餌を出すという実験をした際に、餌を毎回出すパターンと、「可変性」をもって数回に1回だけ餌を出すようにすると、後者の方がレバーを押す回数が増えたそうです。つまり、「可変性」を加えた場合の方が、より多くの行動を起こすことができました。実際、成功したサービスのリワードには後ほど例で挙げるように「可変性」が盛り込まれています。
リワードには以下の3つがあります。
1,トライブリワード
2,ハントリワード
3,セルフリワード
1,トライブリワード
他人とのやりとりからくるリワード。例えば、Facebookで投稿した際に、その先に何を知ることになるのかは分かりません。何人の人がいいね!してくれるか、コメントをくれるのかなど分からないという意味で「可変性」をともなった報酬です。
2,ハントリワード
人間は本能的に、狩猟、つまり探すという行為が好きです。ハントリワードとは、より多くの情報を自分で探していく、というリワードです。Twitterを例に説明してみましょう。タイムラインをさかのぼって見るときに、「これはつまらない、次もつまらない、3つ目は面白い!」という「可変性」をともなった”一種の狩り”を自然と我々はしています。
3,セルフリワード
自己マスタリー、すなわち”極めていくこと”に関するリワードのこと。例えば、ビデオゲームを一人で遊んでいるとします。次のレベルにアップするためにレベル上げをするという行為は、自分が物事を極めていく、コントロールする、という意味でセルフリワードです。私は、ゲームをやらないって?実はビジネスマンは全員、”あるゲーム”をやっています。”メールボックス”で。我々は、受信ボックスを毎日確認しては、未読をなくす努力をします。これは自己マスタリーと全く同じことです。
※注意事項
これら3つのリワードは、ユーザーのかゆいところに届くものでなければ機能しません。例えば、ポイントやバッチをあげるても、ユーザーが喜ばなければ意味がありません。ユーザーがそのリワードを得るためにWEBサービスに訪れる、その中で、もっとそのリワードを得たいと思わせることが重要です。ユーザーの内的トリガー、どういった感情でこのサービスを使っているかを元に考えることが重要です。
4,インベストメント
4つめの段階は、インベストメントです。
これは、ユーザーがこれをすると今すぐいいことは無いけれど将来いいことがあるかもしれないと考えて、アクションをすることです。そしてこれは以下の2つの方法で行うことでよって、ユーザーが次の「Hooked」のサイクルに入るように促すことができます。
1,次のトリガーを導くインベストメント
よくよく考えてみると、LINEでメッセージやスタンプを送っても、その場では何も得られません。バッチやポイントを得られる訳ではない。しかし、それらを送る度に、次のトリガーをロードするようになっています。「返信」です。
2,価値を保存するインベストメント
パソコンやイスなど、モノは時間とともに価値がなくなっていきます。しかし、習慣化したWEBサービスは時間とともに価値が上がっていきます。例えば、コンテンツやデータを保存するというWEBサービスを考えてみましょう。Dropboxではファイルを置けば置くほど、Pinterestではお気に入りの画像をPinすればするほど、そのWEBサービスの価値は上がっていきます。その結果、そのサービスにまた訪れようという誘引は大きくなっていきます。
これら2つのインベストメントは次のトリガーが発生する可能性を、外的、内的という2つの方向で増やします。
これら4つはサイクルとして循環する
今まで見てきた4つのステップはサイクルとして循環します。Facebookを例に説明しましょう。Facebookでは通知などの外的トリガーや、退屈や孤独感といった内的トリガーによって訪問が行われます。そこでのアクションは、単純にスクロールして見るなどです。リワードとして、トライブとハントの2つが機能しています。ソーシャル要素で先が読めないことに加えて、タイムライン上の情報を”宝探し”するというワクワク感です。そしてユーザーは投稿や、投稿へのコメントを行うことでインベストメントを行っています。そしてこのインベストメントに、返事が来ることは見事に次のトリガーとなっており、これらはサイクルとして循環し続けます。
まとめ
これら一連のサイクルを回すことで、サービスをユーザーの習慣に組み込むことができます。
整理をすると、以下の5つをあなたのサービスにおいて考えることで、Hookedサイクルを設計することができます。
1,内的トリガーは何なのか、ユーザーのかゆみは何なのか
2,ユーザーにアクションを起こしてもらうために必要な外的トリガーは何なのか
3,リワードを期待して行うことのできるシンプルな行動は何なのか
4,そのリワードはユーザーの気持ちを満たすものなのか、気持ちを満たすとして、より欲しいと思わせられるものか
5,ユーザーに再度Hookekサイクルに戻ってもらうためにインベストをしてもらう必要があるが、それは何なのか
より詳しい内容は「ハマるしかけ」で!
今回のセミナーの内容では話しきれなかった詳細な部分や、ケーススタディはぜひ日本語版「Hooked」、「ハマるしかけ」を読んで頂ければと思います。
今回のセミナーの後、ニール氏が大好きな寿司を食べながら氏を囲んだ時の写真。